このポエムは絵を全く描いたことがない人間が、コミックマーケット92で4コマ本を出すまでの流れを淡々と描いたものです。

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2017年6月のある日の朝、目覚めると、足元には Microsoft 社製新型デバイス「Surface Pro 5」が転がっていた。朦朧とした意識の中デバイスを箱から取り出し、電源を入れると突然穏やかでないメッセージが現れた。

「2ヶ月以内に漫画を描いて入稿しなければお前は死ぬ」

漫画を書くと言ってもどうすればよいのだろうか。美術の時間はだいたい岡本太郎のモノマネと称してむちゃくちゃな線や色を塗って素晴らしいとか自画自賛していたので、まともな絵がかけるわけない。あ、ちなみに岡本太郎さんの本結構面白いのでおすすめです。高校時代に3冊ほど読んでゲラゲラ笑ってたので中二病真っ盛りの方には刺さる本ではないかと思います。

さて、幸いにして、テキスト物の構成・レイアウトは前々からやっていたので、本を作るプロセスはだいたいわかっている。問題は絵が描けないという点だ。これを解決しなければどうにも本にならない。

そこで我々は、漫画を描く方法を探しに、異国の地 Google へと足を運んだ。現地住民への聞き込み調査の結果「Clip Studio」というソフトウェアが良いということがわかった。さっそく、いくつかのリンクを踏んでポチポチとボタンを押していくと購入が完了し、ソフトウェアのダウンロードが始まった。

インストールをすませソフトを起動するとよくわからない設定画面がでてきた。解像度、キャンバスサイズ…よくわからないし、非常に面倒臭い。とりあえず漫画の殿堂・芳文社の「まんがタイムきららの投稿・持ち込み募集のページ」を見てみることにした。URLがcontributionとなっているあたり、GitHubのオープンソース開発と似ていて親近感を強く感じる。なるほどなるほど?

とのこと(600dpi、えっマジ…なんで…?というあたりの理由はまだよく理解していない)。さっそく同様の設定を行い、とりあえずキャラクターを書き始める。線がまっすぐ引けない。描いた本人もなんのキャラクターを描いたのか認識できない。私は「ご注文はうさぎですか?」という作品が少し好きなので、正直言ってこんなイラストを本にまとめているのを見かけたらちょっとムッとしてしまう。キャラクターに対する愛も何もないひどい線画だった。

2ヶ月で形になる自信が全くなかったので、同僚のリゼさんに絵の書き方を教えてほしいと頼み込んだ。するとリゼさんは2冊の本を貸してくれた。「ヒロマサのお絵かき講座(顔の描き方編・体の描き方編)」だ。なるほどなるほど。とりあえずやってみよう。

という感じで、イラストの練習をする日々が始まった。

はじめのいっぽ

とりあえず好きなキャラクターの好きな構図を線が汚くなってもよいので、きれいなバランスになるようにひたすら書き進めていった。同じ絵を繰り返し描いていくと下手なりにこなれてくるのだが、線をきれいに描きたいという意識のあまり、異常に拡大した状態で書き進めていってしまい、結果全体のバランスが悪化するという現象が発生した。

また、拡大しているので、線が細すぎることに気づけず、仮で印刷してみると線がかすれてしまうということも起きた。テキストもの作るときに基礎レイアウトができたらひとまずコンビニのプリンタで印刷してみる個人的な習慣があるのですが、これのおかげで線が異常に細くて、印刷時に乗らないことに気づけてよかった。

絵が描けない人間が4コマを描くのは愚かな選択である

4コマ漫画はその名前のとおり、すでにコマが定められていて、あとは絵を描くのみなのだが、実は普通の漫画のほうが楽な側面もあることにだんだん気付きはじめてしまった。というのも4コマ漫画は1ページに柱2本分割り付けるとすれば、8コマ存在することになる。ということは、よほどのことがない限り1ページに8つ以上のキャラクターを描かなければならないのである。

また、4コマ漫画はキャラクターどうしのやりとりを描いたストーリーになることが多く、目線のコントロールやキャラクターどうしの位置関係をきっちりと描かないと意味が通じない内容となってしまう。

普段何気なく読んでいる漫画の殿堂・芳文社のドキドキビジュアル全開マガジン「まんがタイムきららMAX」の尊さを、自分が絵を描くことにより感じることになるなんて思わなかった。はじめて本を描く方は4コマを描くという愚かな選択を取る前にどうか、この事実に気づいてほしい。

レイアウトとイラスト制作の違い

イラストレーターでの図版の作成とイラストの大きな違いにも気づいた。基本的にイラストレーターでの制作物は理詰めで、いくつかのレイアウトルールにしたがって版面を構成していったり、曲率を計算したりすることによって、必ず図形が再現できるような進め方をしていくことが個人的には多い。

一方、イラストについては服のこの部分に線がなぜこういう角度で入っているとシワっぽく見えるのか、体のパーツの配置がなぜこうなっているのかといったある種のルール的なものを適用することによりバランスを整えていくことができる部分があると感じた一方で、実際に線を引くのは自分の手の感覚を鍛えていくしかなく、伝統芸能に近い要素が非常にあると感じた。なんどもなんども線を引き直しても、自分の頭の中で描いているような線にならない。部分的に満足のいく線になっても、全体のバランス感がおかしいなど、いくらやっても自分自身が許容できるレベルに達しない状態が続きながらも、どんどん入稿日はせまってくるのです。

なんとなく分かっていたけど、やっぱり2ヶ月で絵をなんとかするのは、あまりにもハードルが高すぎると感じたし、巷にあふれているように見えるイラスト・漫画に対して非常に強い敬意を感じるようになった。絵を見かけると、この人はこの絵を完成させるまでにどれくらいの時間と労力と気持ちを注ぎ込んだのか、少しは理解できるようになった気がして、その尊さを感じるようになった。

描けなかったカラーイラスト

この本の真の目的は、「ご注文はうさぎですか?」単行本の装丁と揃えてあげることでした。したがって、冊子の表紙は厚めのマットな用紙に対して、ブラウンのシックな雰囲気のもの。中表紙に関してはカラーで、できればイラスト。そして、ブックカバーには、SEとしてかわいらしく働くラビットハウス三姉妹の様子を描きたかった。時間も技術もなかったので、目標は達成できませんでした。

コミックマーケット92当日

まわりに有名サークルの素晴らしい本がたくさんならぶなか、アルザスの木組みの街を紹介した「木組みの街の歩き方」という謎の本と、今回のふざけた「ご注文はSEですか?」という漫画を頒布する謎の浮わついたサークル「きらきらアラモード」がブースを出しました。こんな本です。

意外にみなさん手にとっていただいて、本当に自分が一番驚いているのですが、目標としていた部数を午前中に突破して、閉会直前に持ち込み分全て完売という、大変ありがたい結果となりました。イラストの技術はないのですが、作品に対する愛を強く込めた本だったので、受け取ってもらえて嬉しかったです。

特にこの本をあらかじめチェックしていて、中身をチェックすらせず買っていってくれた方も多数いて、こちらから思わず「中身見なくて大丈夫ですか?」とか聞いちゃったりしてました。あと本の中身のネタについて共感してくださるような感想をいただけたのも嬉しかったです。

また昨年、冬の本は、ごちうさ島ではなく、アニメ(その他)ジャンルの聖地巡礼島に出していて、かつ開会から1時間半で完売してしまったため、わざわざ反対のホールから足を運んでくださった方にお渡しすることができませんでした。夏に改めてブースにきていただき「前回買えなかったので増刷していただいて嬉しい」との旨の言葉を4〜5人の方にかけてもらえたのも非常に良かった。

あとは「木組みの街の歩き方」の装丁について、特に「変形A5版」である旨にぱっと見で気づいて指摘してくださった方がいてこれは本当に嬉しかった。地球の歩き方シリーズのパロディ本だったのですが、これは標準規格のサイズではなく、縦A5版をカットして細長くしたサイズだったのです。こうした変形裁断に対して無線綴じでそれなりに手頃な価格で仕上げてくれる印刷会社さんはほとんどなくて結構苦労しました。最終的には、会社の先輩に教えていただいたイニュニックさんという印刷会社さんが本当に素晴らしいクオリティで仕上げてくださり本当にありがとうございますという感謝の気持ちでいっぱいになっています。

また、ブースにはおなまえは伏せますが、神絵師の方々がわざわざ足を運んでくださり、インターネットでいつも観測している、あのアイコンの方だ!みたいな方もたくさんいらしていただき、本当にありがたい限りの夏コミでした。

唐突な宣伝

冬コミで出したごちうさ舞台探訪本については増刷分、在庫わずかですが COMIC ZIN さんで委託通販を行なっています。
また、夏コミ新刊「ご注文はSEですか?」については今後、どこかしらのショップに委託をする予定ですので、ぜひよろしくお願いします。

http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=30771

結論

もう二度と絵は書きません。

以下、弊サークルの打ち上げの様子です。