【ケーリー・ハミルトンの定理】
T を n 次正方行列としてその固有多項式 ϕT(λ)=∣λE−T∣ を考えたとき、
λ を T に 1 を E に置き換えた行列の多項式について ϕT(T)=O が成り立つ。
これが、ケーリー・ハミルトンの定理の一般的な形です。
それではこの定理から一般に高等学校の数学 C で習う 2 次正方行列版のケーリー・ハミルトンの定理を導出してみましょう。
任意の 2 次正方行列Aについて、A2−tr(A)⋅A+det(A)⋅E=Oを示せ。
A=[acbd] とすれば、ケーリー・ハミルトンの定理より
ϕA(λ)=∣λE−A∣=∣∣λ−aλ−cλ−bλ−d∣∣=(λ−a)(λ−d)−(λ−b)(λ−c)=λ2−(a+d)λ+(ad−bc)=λ2−tr(A)⋅λ+det(A)
今 λ を A、1 を E(単位行列)と読みかえれば
A2−tr(A)⋅A+det(A)⋅E=O
ここまでくれば高等学校で見慣れたあのケーリー・ハミルトンの定理になりました。
ところでこの例題の途中にはケーリー・ハミルトンの定理の使い方がよく表れています。
実際に例題に目を移してみると、まずケーリー・ハミルトンの定理にしたがい λ の多項式を導出し、
λ を A、1をE(単位行列)に置き換えた行列多項式が O を満たすという展開となっています。
これにより高次の行列をより低い次数の行列多項式で表すことができます。
A=[1243] のとき、A2を求めよ。
ケーリー・ハミルトンの定理より
ϕA(λ)=∣λE−A∣=∣∣λ−1λ−4 λ−2λ−3 ∣∣=(λ−1)(λ−3)−(λ−4)(λ−2)=λ2−(1+3)λ+(3−8)=λ2−4λ−5
今、λ を A、1 を E(単位行列)と読みかえれば
A2−4A−5E=O⇔A2=4A+5E=[981617]
A=⎣⎡−2241−1−2203⎦⎤のとき、A6を求めよ。
ケーリー・ハミルトンの定理より ϕ_A(λ)=∣λE−A∣=λ3−λ
今、λをAと読みかえれば A3−A=O⇔A3=A
∴A6=A2=⎣⎡−2 −60130−241 ⎦⎤
逆行列を求める問題は、編入学試験においてしばしば出題されています。その解法として代表的なものが、余因子行列を使うものと、行基本変形を使うものです。
しかし、場合によってはケーリー・ハミルトンの定理を使ったほうがはやく、正確に解けることがあるので、覚えておくとよいでしょう。
まずは、ケーリー・ハミルトンの定理をそのまま使って行列の関係式を出します。そして両辺に逆行列を掛けてやります。こうすることにより単位行列のスカラー倍の項に、逆行列が掛かり、逆行列に関する関係式を導くことが出来ます。したがって行列の和・差・積など基本的な計算で逆行列を求めることが出来ます。
行列の次数が比較的低いときにはミスが起きにくい強力な解法となります。実際に以下の例題でこの事実を確認してみてください。
A=[1243] のとき、その逆行列 A−1 を求めよ。
ケーリー・ハミルトンの定理より
ϕA(λ)=∣λE−A∣=∣∣λ−1λ−2λ−4λ−3 ∣∣=(λ−1)(λ−3)−(λ−4)(λ−2)=λ2−(1+3)λ+(3−8)=λ2−4λ−5
今、λをA、1をE(単位行列)と読みかえれば
A2−4A−5E=O
両辺に左からA−1 を掛けて
A−4E−5A−1=0⇔5A−1=A−4E=[−324−1 ]
∴A−1=[−3/52/54/5−1/5]