超技術書展で頒布した iOS アプリ開発の全体像をだらだら書いた本を記事として公開。 ただのポエムです。

1. iOS アプリ開発を取り巻く環境

iOS アプリ開発には、基本的に macOS を搭載したコンピューターと Xcode とよばれるソフトウェアが必要です。もともと主に Objective-C という言語が使われるケースがほとんどでしたが、2014 年 6 月に Apple がプログラミング言語 Swift を発表して以後の新規開発には、ほとんどの場合 Swift が採用されているようです。また Swift は、Objective-C のコードと共存できるため、もともと Objective-C で開発されていたアプリを徐々に Swift に移行しているという話もよく聞きます。

ただし、広告や SNS などの SDK や、幅広く使われることが予想されていて安定性が必要なライブラリについては、依然として API が安定している Objective-C で開発が行われているケースが多いと感じます。裏を返すと Swift は言語としてまだ成熟していないということです。Swift2 系までではマイナーバージョンアップデートでも、激しい破壊的変更が行われていました。Swift3 系ではある程度落ち着きは見えますが、安定しているとは言い難い状況ではあります。それでも Objective-C に比べて平易な構文、オプショナルやクロージャといったモダンな言語機能、そして静的型付けによる安全なプログラミングなど、得られる恩恵が大きいのは確かです。

1.1. iOS, Xcode, Swift, macOS のアップデート

Apple は定期的に iOS のメジャーバージョンアップデートをリリースしています。また Swift のアップデートもさかんに行われています。これらに対応するためには Xcode の更新が必要になるケースが多いです。Xcode はファイルサイズが大きく、回線速度にもよりますがダウンロードに数十分、圧縮ファイルの解凍にまた数十分かかります。さらに、新しい Xcode を入れるには、新しい macOS を入れなければならないことが多々あります。macOS の更新に 1〜2 時間かかることが珍しくありません。

実際のところ、こうした大きな更新があると最悪、半日ほど開発がストップしてしまいます。また、これらの作業は開発者や CI サーバーも含め全体のマシンでやる必要があり、考慮に入っていないと意外に手痛い時間のロストとなります。

これまでの動向では、Swift 下位バージョンの切り捨ては早く、新しいバージョンに素早く追従しないと最新の Xcode ではビルドができないなどの問題が発生する可能性があります。Swift を利用すると決めた時点で、遅くとも 2〜3 ヶ月以内に最新の Swift バージョンでビルドできる状態に持っていくような開発体制をとれるよう、あらかじめ開発工数のバッファをとることを強くおすすめします。

1.2. Xamarin という選択肢

iOS アプリ開発には Swift や Objective-C 以外の言語を使うこともできます。その中でも代表的なものが、クロスプラットフォーム開発ツールの Xamarin です。これにより C#や F#といった言語での iOS アプリ開発が可能になります。これらは言語としては安定していて、C#はエンタープライズ方面での実績も十分にあります。また IDE として Visual Studio や Xamarin Studio などを利用することができます。ストーリーボードなどの UI コンポーネントを見た目通りに配置しながら画面を作るためのツール Interface Builder 相当のことも、これらの IDE で実現可能です。

Xamarin 社は Microsoft 社に買収され、現在個人での利用や特定の条件下において無料で開発環境を手にすることができるようになり、徐々に普及している段階の技術です。とはいえ、すでにフェンリル社が開発を行なった NHK 紅白歌合戦のアプリなどで十分な実績があり、実用に耐えうるものといってよいでしょう。

Xamarin.iOS と Xamarin.Forms

Xamarin のなかでも Xamarin.iOS と Xamarin.Forms という 2 つの API 群の選択肢があります。Xamarin.iOS は iOS SDK の API とほとんど 1 対 1 に対応しており、Swift や Objective-C と似たような感覚でアプリを構成することができます。一方、Xamarin.Forms は各プラットフォームの API を抽象化したものを使ってアプリを構成していくため、Xamarin.Forms に特化した知識をつける必要があります。その代わり、1 つのコードから複数のプラットフォームをターゲットとしたアプリを作成することができ、開発効率の向上やマルチプラットフォーム間での実装のズレを防げるといったメリットがあります。

1.3. React Native という選択肢

Xamarin 以外にもクロスプラットフォーム開発ツールとして Facebook が推し進める React Native という技術があります。すでに Instagram, airbnb, Facebook Messenger など大きなアプリですでに利用されています。各プラットフォームにおける UI コンポーネントを抽象化した React コンポーネントを組み合わせてアプリを構成するという思想を持っています。おおよそ React.js と同じような形でアプリケーションを構成することができます。最近流行りの React+Redux 構成を取ることもできるため、JavaScript に詳しい方はチャレンジしてみるのもありかもしれません。

1.4 iOS アプリ開発未経験者がとるべき選択肢

iOS アプリ開発においては、基本的に iOS SDK の基本的な振る舞いを理解することは必須であるため、経験者がひとりもいないチームでの開発は Objective-C か Swift を採用するのが良いでしょう。当然ながら書籍や情報の量、サポートできる人材の量も一番多いです。iOS アプリ開発経験者がいるのであれば、どの方法を選んでも良いと思いますが、Xamarin.Forms を選んだ場合には、iOS SDK を直接触った場合とかなり勝手が異なるはずなので、十分な技術調査・検討を行ってから採用することを強くお勧めします。

2. iOS アプリ開発の流れ

iOS アプリはおおまかに「企画」「要件定義」「設計」「実装」という流れで開発を進めていくことが多いでしょう。最終的には Apple による審査を経て App Store での公開が可能になります。この審査は他のプラットフォームに比べて厳しく、単純で機能が少ないアプリは Apple によりリジェクトされる可能性が高いです。例えばアプリ開発の練習として簡単な電卓などを作っても、App Store 上には類似のアプリが無数にあるため、公開できない可能性があるということになります。

2.1. 企画

アプリを通してどのようなユーザーにどのような体験を与えたいのか、ターゲットユーザーと実現したいことを明確にする必要があります。似たようなアプリがある場合は、それらの調査を行い、どのように差別化を図りたいのかを検討すると良いでしょう。また「App Store 審査ガイドライン」に違反する内容のアプリはたとえ出来上がっていても App Store に出すことができない可能性が高いため、企画を始める段階からある程度を考慮することを強くお勧めします。特にアプリ内課金を導入する際には Apple の審査はよりいっそう厳しくなるため、審査ガイドラインに沿った形に企画を着地させる必要があります。

2.2. 要件定義/デザイン

おおまかな企画が定まったら、アプリをどのように構成するのかを考えるフェーズに入ります。ユーザーにアプリの中をどのように回遊してもらい、どのような体験を提供するのかを具体化させていきます。また提供するコンテンツやアクションの階層構造/論理構造をはっきりとさせておくと、要件やデザインに落とし込むときに混乱を防ぐことができるので、この段階で整理しておくといいでしょう。例えば電子書籍リーダーを作る場合は、本一覧がベースの階層となり、1 つ深い階層にシリーズが存在します。さらにシリーズには複数の本が紐づくといった具合です。

おおまかにやりたいことが見えてきたら、プロトタイプを作成してみましょう。紙ベースで画面を描いたり、矢印で動きを表現したりといった簡単なもので構いません。また Adobe Experience Design(XD)などを使うとより高度なプロトタイピングが行えます。実装コードを書かずにおおまかな動きを見ることができるため、複数のチームメンバ間でイメージを共有するにはうってつけのツールだといえます。iOS アプリの細かなデザインについての話は 3 章に記します。

2.3. 設計/実装

要件がある程度定まったら、アプリの技術的な設計フェーズに入ります。また特に要件のなかで実現が難しい点があれば、本当に実現可能なのか検証してみる必要があります。具体的な話は 4 章以降に記していきます。

2.4. ベータテストと品質保証

開発中は Crashlytics Beta や DeployGate、小規模であれば自前での Ad-Hoc 配信などを通して開発チーム内でドッグフーディングを行うことにより、アプリの不具合検出や改善などを行います。また、ある程度の状態まで達したら開発に携わっていない第三者にも利用してもらい、フィードバックをもらえるようにしておくと、開発チームでは気づけない問題が発見できるでしょう。

いよいよリリースしても問題ないという段階が近づいてきたら、アプリの動作確認項目一覧表などを作り第三者にチェックをお願いすると、より安定したアプリをストアに出すことができると思います。これは一般的に品質保証(QA)のステップとよばれることが多いです。

2.5. 審査提出とリジェクト対応

大きなアプリとなると一発で審査をパスするのは難しく、Apple から何らかの指摘を受けてリジェクトされると思っておいたほうがよいでしょう。あらかじめリジェクトされることを想定して、ある程度アプリが出来上がってきたら、とりあえず審査に出してみるのも戦略のひとつです。これによりリジェクト対応のための仕様変更が生じる点を早めに知ることができます。

2.6. リリース

審査に通過したら晴れてアプリを App Store にリリースすることができます。審査提出時にはリリースタイミングのオプションがあり、そこで指定されたとおりにリリースが行われます。オプションは以下の通りです。

  • 手動でリリース: 審査通過後、リリースボタンを押したタイミングでリリースされる
  • 自動でリリース: 審査通過後、自動でリリースされる
  • 指定時刻以降に自動でリリース: 審査通過後、指定の時刻を過ぎたタイミングでリリースされる

なお、オプションは iTunes Connect というアプリの管理に使われているサービスの仕様変更によって変わる可能性があります。

3. iOS アプリのデザイン

iOS アプリの UI/UX に関しては Apple が公式に「iOS ヒューマンインターフェースガイドライン」を制定しています。ガイドラインに沿わないデザインや実装を行うと一部は審査でリジェクトされる可能性があるため、開発を始める前にざっくりと目を通しておくとよいでしょう。ここではアプリ全体のデザインに影響してくるポイントを数点、記述します。

3.1. なるべく標準 UI に沿ったデザインにする

特段デザインにこだわりがなければ、iOS のメールや Safari、設定画面などの標準的なアプリに沿った形で UI コンポーネントを利用し、画面を構成していくのがよいでしょう。UI コンポーネントを過剰にカスタムして使うと、場合によってはユーザーがどのように利用すればよいのか迷ってしまう可能性があります。また、iOS バージョン間で見た目や振る舞いを統一するのが難しくなり、最悪の場合は特定バージョンにおいて期待した動作を提供できなかったり、クラッシュを引き起こしたりする原因にもなります。

3.2 アプリ内の画面遷移

アプリを作る際に 1 画面だけで構成することは非常に稀で、ほとんどの場合には画面を遷移させる必要が出てくるでしょう。iOS の画面遷移には、主に次の 2 つのパターンが存在します。

  • プッシュ遷移
  • モーダル遷移

プッシュ遷移とは iOS の設定画面などで見られる右方向に階層構造を掘るように遷移するタイプのものを指します。この遷移は、スワイプで戻ることができ、コンテンツ階層間の移動をスムーズに行うのに適しています。この階層構造は、提供するコンテンツの階層構造と揃えてあげるのが一般的で、ユーザーにも理解しやすい形になるでしょう。たとえば音楽プレイヤーである iTunes アプリは、ライブラリ → プレイリスト一覧 → プレイリスト → 楽曲というコンテンツ階層構造になっています。当たり前のことではありますが、きちんと分類して構成されているアプリは意外に多くありません。アプリデザインの構成を考える際に同時に提供するコンテンツ階層構造を整理することは、きっとデザインをする上でも役に立つことでしょう。

一方、モーダル遷移は、ビューが現れている間はその要素内でしか操作ができないようなものを指します。例えば、iOS の Safari のブックマーク一覧はこのタイプの遷移をします。また注意喚起のダイアログなどもモーダル遷移にあたります。何かオプションを指定したり選択したりする際に使われる傾向にあります。しかし、モーダルを閉じるには基本的にはタップをする必要があるため、ユーザーに煩わしさを感じさせてしまう可能性が高まります。最近は、モーダルビューを前の画面の上に浮いた状態で表示し、モーダル画面自体をスワイプすることで閉じる実装も目立つようになってきました。これにより閉じるためにタップをしなければならない問題が解消され、モーダル遷移に対するストレスを緩和させることができるため、可能であればそういった実装も考えてみると良いかもしれません。

3.3. デバイスの大型化とデザイン

iPhone 6 PLUS の登場時には、そのデバイスの大きさに随分と驚いた方も多いのではないでしょうか。実際 iPhone 5 のデバイスサイズは 4 インチであったのに対して、iPhone 7 PLUS では 5.5 インチになっています。解像度も高くなり表示領域が増え、デザイン表現の幅が広がったのは間違いありません。

しかし、デバイスが大型化する一方で、人間の手の大きさは変わっていない点には注意する必要があります。右手でデバイスを操作する場合、左上や左下に配置したボタンなどには指が届きにくく、アプリのスムーズな操作の妨げになります。以前はモーダル画面の閉じるボタンを左上に配置するケースが目立っていたのですが、近年は右上や右下などに配置されているのをよく見ます。また、先述したとおり、モーダル画面自体を上下にスワイプすると閉じることができるように構成されているものもよく見ます。本質的には触り心地が良い形に画面を構成していければ、きっと良いアプリになるのではないかと考えています。

4. アプリをどのように構成すれば良いのか

初めてアプリ開発をする際に何に気をつければよいのか、とても不安になる気持ちは非常にわかります。筆者も初めてアプリを構成する際に何かアプリ開発特有の構成・設計を取る必要があるのではないかと思い調査をしました。結局のところネイティブアプリは、裏で処理をしつつも、ユーザーの入力を常に待ち受けつづける必要があるため、UI スレッドをブロックしないように注意するという点に注意していれば、一般的なプログラミングとほとんどかわらないと思います。したがって基本的なプログラミングができる方は何も心配せず、以前から実践していた技法を使いアプリを構成することができるでしょう。

iOS アプリ開発が本当に初めてである場合は、まずラベル(UILabel)、ボタン(UIButton)、テキストフィールド(UITextField)、画像(UIImage)などの基本的なコンポーネントの使い方を覚えると良いでしょう。続いて複雑なビューを構成する基本的な要素であるスタック(UIStackView)、テーブル(UITableView)、コレクション(UICollectionView)、スクロール(UIScrollView)、タブ(UITabBar)の使い方を学ぶと、自分の思い描いたビューを実現するための下地が整うのではないでしょうか。

4.1. 複雑な設計を採用する前に考えたいこと

近年、iOS アプリ開発をする上でどのような設計手法を取るかというような話題をよくみかけます。「iOS クリーンアーキテクチャ」や「ヘキサゴナルアーキテクチャ」など熱心に議論が行われています。これらの議論や記事ではアプリの規模感についての前提が共有されていなケースが多く、場合によっては過剰な構成となり、コードの可読性や開発のスピードを下げてしまうこともあるでしょう。開発メンバー間で考え方も一致させていく必要があり、本当に必要なものが何なのかを見極めることが非常に重要です。

iOS アプリのコードベースは往々にしてそれほど大規模なものにはならず、だいたい 1 万〜2 万行程度で構成されることが多いと思います。アプリ全体のアーキテクチャパターンを考えることは確かに大切なことですが、私自身は SOLID 原則や DRY 原則、YAGNI 原則などのシンプルで基本的なプログラミング原則を意識してコーディングしていくように心がけています。アーキテクチャのたくさんの決まりごとを意識しつづけるのは難しいことです。少数のシンプルで明確な決まりごとを意識していると実は自ずと、本に書かれているようなアーキテクチャになっていることは多々ありますし、そもそも複雑なアーキテクチャの根底思想にはシンプルな原理原則があることが多いと思います。

4.2. ライブラリの選定

アプリのすべてのコードを自前で書くことは稀で、多くの場合オープンソースライブラリの助けを借りることになると思います。ライブラリをうまく使いこなせば大幅に開発期間を短縮することができ、場合によっては多くの人に使われたり、メンテナンスされているため、一人で書いたものに比べ品質の高いコードを利用することができるなどというメリットもあるでしょう。

ただし、Swift のライブラリについては、今後予想される言語自体のアップデートに継続的に対応させる必要があります。過去に大きな変更が幾度も入ったため、GitHub で Star がたくさんついていて、多くの開発者が利用しているライブラリでも、最新の言語バージョンにアップデート対応がされず、放置されていることは珍しくありません。利用する前に、メンテナンスが継続して行われているかを GitHub の Pulse などで確認しておくことをおすすめします。また、メンテナンスが止まってしまった場合、公開リポジトリからフォークして、自分でメンテナンスしていく覚悟が必要です。

これは Swift のライブラリに限ったことではないですが、基本的にはコードの 8 割程度をざっくりと斜め読みし、コードの設計・品質・メンテナビリティ・適切なテストが存在するかなどを確認してから依存を決めると失敗がないと思います。また利用した各ライブラリのライセンスを遵守し、必要であれば必ずライセンス表記をしましょう。

4.3. ライブラリへの依存

ライブラリを導入すると一口に言ってもいろいろなやり方があります。たとえば秘匿情報などを管理できるキーチェーンにアクセスするライブラリを使うことを想定してみましょう。何も考えずに ViewController の必要な箇所でライブラリを import して依存コードをばらまいていくというやり方は、最初の実装者にとっては一番手が抜けて楽かもしれません。しかしこれには大きな問題があります。ものにもよるとは思いますが、おそらくライブラリを利用している周辺のコードは似たような実装が繰り返し登場しているのではないでしょうか?またライブラリのインターフェースが変更されたり、利用するライブラリを差し替えたりする場合、あちこちに散らばったコードに手を加える必要がでてきます。

したがって、個人的にはライブラリを利用する際にはなるべく依存コードを記述する範囲を狭くするように意識することが多いです。大半の場合はひとつのクラスの中に閉じ込めることができるはずで、その上でプロトコルを切り、実装クラスを差し替えられるような構造にするのが好みです。こうすることによってライブラリを差し替えたり、自前の実装に切り替えたりするなどの対応も容易になります。またテストの書きやすさにも繋がる場合もあると思います。

5. アプリと非同期処理

ユーザーインターフェースの存在するアプリは常にユーザーからの入力を受け付ける状態を保たなければならないという制約があります。したがって、何か重たい処理をするときは別のスレッドに仕事を任せる必要があります。この重い処理にはどんなものがあるでしょうか。例えばサーバーにデータを取得する際はリクエストを送ってからレスポンスが帰ってくるまで時間がかかります。この間ユーザーの入力を一切受け付けないアプリは控えめにいって最悪でしょう。また画像の変換や複雑な計算などはユーザーからのアプリへの入力をブロックしてしまいます。

これを避けるためには、重たい処理はユーザーからの入力を受け付ける担当とは別のものに任せればよいでしょう。ユーザーからの入力を受け付けている窓口はメインスレッドとよばれています。対してその裏で処理を行なっているものをバックグラウンドスレッドとよんでいます。また、あるタスクの実行を止めずに別の処理を行うことを非同期処理と言います。iOS アプリ開発において非同期処理はスレッドを利用して実現されていますが、Swift, Objective-C からは開発者が直接スレッドを触ることなく非同期処理を取り扱える仕組みが用意されています。それが Grand Central Dispatch(GCD)とオペレーションキューになります。それぞれどのようなものかざっくりと特徴をみていきます。また、Apple が公式で提供している「並列プログラミングガイド」および「スレッドプログラミングガイド」を参照するとコードレベルの技術詳細に迫ることができると思いますので、ご覧ください。

5.1. Grand Central Dispatch(GCD)

GCD を利用する場合もオペレーションキューを使う場合も、基本的にはキューにジョブを積むというのが基本的な実装内容になると思います。ではこの 2 つの何が違うのかというと、用意されているキューの種類とジョブをクロージャで渡すのか、オブジェクトで渡すのかという点になります。

GCD には、キューイングされた処理を逐次実行していく直列ディスパッチキュー(Serial Dispatch Queue)と並列に実行していくのが並列ディスパッチキュー(Concurrent Dispatch Queue)が用意されています。さらに特別なキューとしてメインスレッドで行いたいタスクをキューイングするためのメインディスパッチキューというものが用意されています。メインスレッドはひとつしかなく、並列にできないので当たり前ではあるのですが、これは構造的には直列ディスパッチキューになります。

さて、実際のアプリの中でこれらがどのように利用されるかを少し想像してみましょう。例えばボタンを押したイベントを皮切りにサーバーに HTTP 通信を走らせ、その結果をテキストボックスに表示するケースを考えてみましょう。最初にメインスレッドがボタンの押下イベントを受け付け、イベントハンドラを呼び出します。続いて、イベントハンドラは並列ディスパッチキューにクロージャをわたして、あとの処理をバックグラウンドスレッドにお任せします。このように、裏側で行わせたい仕事をキューに積んで放置することにより、ユーザーからの入力を受け付けられる体制に即座に戻ります。一方、バックグラウンドスレッドではどのようなことが行われているでしょうか。並列ディスパッチキューに渡されたクロージャの中身をみてみましょう。まず HTTP リクエストをサーバーに送るでしょう。そしてレスポンスが帰ってきたら、そのデータをよしなに加工して、テキストボックスに反映させる必要があります。このときに注意が必要で、基本的に UI コンポーネントを更新する際はメインスレッドでやる必要があります。したがって、加工し終わったデータの準備ができたら、今度はメインスレッドに処理を行わせるための直列ディスパッチキュー(DispatchQueue.main)にクロージャでお仕事を渡します。お仕事内容は単純にデータをテキストボックスに反映させるだけです。

5.2. オレペーションキュー

オペレーションキューを用いる非同期処理では、タスクを表現したデータ構造である Operation を作り、キューに渡していくという流れになります。したがってあらかじめタスクを仕込んでおいて一気に並列/直列で実行するなどということが可能です。実際のところ GCD のラッパーでしかないため動作原理はほぼほぼ同じになります。しかし、クロージャではなくタスクというオブジェクトを引き回せることでより柔軟で複雑なプログラミングが可能になると思います。

5.3. スレッドセーフな実装

複数のスレッド間で共有されるオブジェクトは不正な状態になる可能性をはらんでいます。不変なオブジェクトであれば問題はないですが、状態を持つオブジェクトには不正な状態になることを防ぐための実装を施してあげる必要があります。一般にマルチスレッド間でのオブジェクト共有に対して安全であることをスレッドセーフな実装とよんでいます。スレッドセーフな実装を実現させるためのツールにはアトミック操作とメモリバリア、ロック、条件変数などがあります。それぞれ特徴が異なっており、用途に適したものを利用する必要があります。詳細については Apple が公式で提供している「スレッドプログラミングガイド」を読むと良いと思います。

6. アプリ内通信のこれから

多くのアプリではウェブ API を利用したり、画像/音声/動画リソースをインターネット上から取得します。これから Swift/Objective-C で開発をはじめようという方はどのようにして HTTP リクエストを走らせるのかという点が気になるのではないでしょうか。

ネットで検索をすると AFNetworking や Alamofire といったライブラリの名前がヒットすると思います。しかし個人的には標準で提供されている URLSession で十分足りると考えています。複雑な POST リクエストの組み立てなどには一部ライブラリの助けがあると楽をすることができるかもしれませんが、それを除けばライブラリに実装されている機能を利用する機会はそれほど多くないでしょう。通信ライブラリに限らない話ですが、本当にそのライブラリを導入する必要があるのか、よく検討してみてください。

6.1. App Transport Security

App Transport Security(ATS)とは iOS9.0 以降で導入されたサーバークライアント間でのセキュアな通信を保証するための仕組みです。Apple が推奨する TLS バージョンと暗号スイート、サーバー証明書とそのハッシュアルゴリズム、サーバー証明書の署名キーを満たしていない場合に接続エラーとなります。

2017 年 4 月現在では ATS に対応することは必須ではなく、HTTP 通信や Apple の推奨条件を満たさない HTTPS 通信を行いたい場合は、Info.plist に設定を追加することで ATS による接続エラーを回避することができます。しかしながら、Apple は ATS に正当な理由なく対応していないアプリをリジェクトするとの予告を出しており、今後アプリ開発をしていく上ではこれに対応することはほぼ間違いなく必須条件となるでしょう。

少なくとも自前で立てているサーバーと通信を行う場合は、Apple が定めた推奨条件に対応させましょう。ただし自分の管理外サーバーとの通信を行う場合は、ATS に対応しない正当な理由として認められるようです。

6.2. API クライアントは人間の書くものではない

大半のアプリでは REST API を叩き、そのレスポンスをもとにビューを更新するなどの処理が入るのではないでしょうか。こんなときには API クライアントの実装が必要になるでしょう。

残念ながら Swift で API クライアントを書く作業は Swifty ではありません。URLSession を用いてレスポンスを取得し、正常なリソースが得られたら JSON なり XML なりをパースして JSONObject を手に入れます。続いて JSONObject の各キーから値を取り出して Swift で定義したエンティティの構造体にマッピングします。Java や C#などを使うとシリアライズやデシリアライズの工程はだいたい手で書く必要はなく、十分に実績のあるライブラリが自動的にやってくれるため、とても Swifty なのですが、Swift には現在そのような機能を実現するライブラリは存在しないようにみえます。またあらかじめスキーマが決まっているエンティティの構造体を書くのも非常に面倒臭い作業で自動化したい機運が高まります。

API クライアントのレイヤーを自動で解決するための方法はいくつかあります。ひとつ目は Swagger という REST API 作成のためのフレームワークを利用する手法です。仕様を表現した YAML ファイルから自動で API クライアントのコードを生成できるのが特徴です。

また REST API からは外れますが、Protocol Buffers を使うことによりデシリアライズやエンティティの作成を自動化できます。こちらはサーバー側から送出されるレスポンスも Protocol Buffers に対応させなければならないため、自前のサーバーを利用したアプリ作成のときに使える手段となります。サーバーとクライアント間の通信も含めて、すべて自動でコード生成したい場合は RPC フレームワークの gRPC の利用を検討してみてください。

7. ユーザーに笑顔を届けるまでが iOS 開発

Apple による過酷なダンジョンを切り抜けついに審査を切り抜けたみなさんは、ついにリリースボタンを押すことになるでしょう。いままで開発をすすめてきたメンバーと一緒にリリースボタンを押すとウェイ感がでてとてもエモいので是非おためしください。

7.1. AppStore のねぼすけ

さて、時間はお昼の 12 時、無事リリースボタンを押した我々は AppStore に飛び、アプリをダウンロードしてみようと試みます。しかしながら、アプリは見当たりません。Apple の実装はとても lazy(怠惰)なのでリリースボタンを押してから反映までに 30〜60 分程度要すると思っていただいてよいでしょう。もし決まった時間にプレスリリースや SNS などでリリース告知をする際には、あらかじめこっそりとアプリをリリースして、AppStore に反映させておくのが良いと思います。

そんなこんなでアプリは 13 時にはストアに反映されていたとしましょう。ところが twitter でエゴサするとダウンロードがうまくできないとの酷評が。リリースと同時につけられる 1 ツ星評価。実際のところ何が原因か分かっていないのですが、お昼の時間帯などは AppStore からのダウンロードがうまくいかないときがあるようで、個人的にはリリースはアプリのユーザーがアクティブでなくなってくる時間帯にするようにしています。個人的には AppStore のアプリ配信サーバーを増強してほしいという気持ちをここに掲載させていただきます。

7.2. 俺たちの闘いはこれからだ!

アプリをリリースして、開発を終わらせるぞ!そう思っていた時期が私にもありました。しかしアプリ開発はリリースしてからが本番です。まずは多くのユーザーに使ってもらうためにきっと様々な仕掛けが必要でしょう。また発生させてしまった不具合の対応や、アプリをさらに快適に利用できるような新機能の提供などやることはたくさんあるはずです。そう、俺たちの闘いはこれからだ!

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